強度検討書等を作成するための考察

 

強度検討書を作成するためには、材料力学とか構造力学などの知識が必要になってきますが、今更一から学んでいる時間的な余裕は無いという方のために、かなり端折った強度検討書を作成するために必要となる要点だけをご案内しようと思います。

専門の方がご覧になれば、一言二言文句も言いたくなる解説もあるかと思いますが、ここは一つ強度検討書を作成するためだけという意味合いで、何故そうなるのかの説明などは省略し、こういうものだと思い込んでもらうことを前提に話を進めていこうと思っております。

 

強度検討書を作成するにあたり一番必要となるのは、その部品にはどのような方向からどの程度の外的荷重がかかっているかということを見極める能力です。

その荷重を受けることにより、構造物は当然の事ながらストレスを受けます。

ストレス(Stress)とはつまり応力の事で、外的荷重を W として応力を P とすると、強度的に問題がない状態では W = P で釣り合うこととなりますが、外的荷重を無制限にかけ続けて行くと、やがて構造物は破壊されてしまいます。?

では、P はどの地点で耐え切れなくなってしまったのか・・・?

その限界の荷重となる重量は何㎏だったのかを探るには、何か手がかりが必要になることと思います。

それは例えば構造物の大きさであったり太さであったり、また構造物の材質などにも関係してきます。

表現が適当ではありませんが、1cm四方で50㎏の重さに耐える構造物があったとした場合、2㎝四方にした場合は面積が4倍になるため、200㎏の重さにまで耐えることが出来ます。

別の方法としては、その構造物の材質を変更して、1㎝四方で80㎏の重さに耐えることの出来る材料を使った場合、面積が同じであれば元の50㎏から80㎏まで耐えることが出来るように強度が上がりました。

 

耐荷重を上げるために、今簡単に(断)面積を増加させましたが、続いて素材そのものの強度に付いて考えてみたいと思います。

 

例えば、SS400 という材料と、S45C という材料があります。

これはネットなどで 「S45C 機械的強度 」などと入力して検索をかけると、簡単に強度を調べることが可能です。

SS400  引張強度 400N/mm2   降伏点 245N/mm2

S45C   引張強度 570N/mm2   降伏点 345N/mm2

単位がわかりづらい方は、数値を 9.806 で除してください。

すると、

SS400  引張強度 40.79㎏/mm2   降伏点 24.98㎏/mm2

S45C   引張強度 58.12㎏/mm2   降伏点 35.18㎏/mm2

と、なったかと思います。

 

ここで 引張強度 と 降伏点 という数値が出てきますが、誤解を恐れずに簡単に申し上げますと、

引張強度というのは、破断などを起こす最大の引張応力値のこと。

降伏点というのは、破断などを起こす前の状態で、変形が元に戻らなくなる状態の最大応力のこと。

 

例えば、直径3mm程度の断面が丸い針金を使い一方を地面に固定し、残りの一方を徐々に引っ張る力を増していったとします。

引っ張り続けると針金は当然切れてしまいますが、この切れる時の応力が引張強度となり、切れる前にその切れる部分の断面が徐々に細くなって(伸びて)切れるのですが、最初のうちは引っ張る力を緩めると、細くなっていた部分もゴムの様に元に戻りますが、ある程度の力で引っ張り続けるとやがて引っ張る力をゆるめても戻らなくなってしまいます。

この状態を 塑性変形(そせいへんけい)と言いこの塑性変形が始まる地点を降伏点と呼びます。

言い方が若干違いますが、塑性変形が起きると、破壊されるのはもうすぐそこ、時間の問題です。

引張強度と、降伏点の関係は、当然その素材ごとにより異なり、スプリングなどに使用される材料であればすぐに変形されては困るため、塑性変形に対してより強く作られていますので、降伏点の値も引張強度の値に近づいてきます。

 

ここで先ほどの直径 3mm の針金に再度登場してもらい、SS400 と S45C の場合の強度の違いを比べてみようと思います。

まず先に単位換算した値から、SS400 は1mm2で 40.79㎏ の力で引っ張ると破断し、24.98㎏ の時点で塑性変形が発生すると言いました。

同様にS45C の場合は、58.12㎏ で破断、35.18㎏ で塑性変形です。

 

但し、針金の直径が3mm ですので、面積 A は

A = π×32/4 = 7.06mm2

つまり、1mm2?で破断、塑性変形がそれぞれ上記の数値でしたので、面積が7.06倍になりますので、それぞれの数値も7.06倍となります。

結果、SS400 の場合、直径3mmの針金で破断するのが、40.79×7.06=287.97㎏、塑性変形が176.35㎏、

S45C の場合は、410.32㎏ で破断、248.37㎏ で塑性変形となります。

 

今度は、安全率というものを取り入れて考えてみたいと思います。

安全率、つまりは構造物を限界の状態で使い続けるわけには行かないので、安全マージンを設定してみようということです。

 

それではSS400 に安全率を設定してみます。

設定する安全率は、自動車の各種強度検討によく使用される、破壊安全率1.6 、降伏安全率1.3 を使用します。

この場合、安全率の範囲内での荷重値は、単純に破断強度を破壊安全率の1.6 で除したものと、塑性変形点を降伏安全率の1.3で除したものの数値以下であれば安全率の範囲内だということになります。

それでは計算してみましょう。

破壊安全率における許容限度 = 287.97㎏/1.6 = 179.98㎏

降伏安全率における許容限度 = 176.35㎏/1.3 = 135.65㎏

となり、双方の条件を満たすためには、135.65㎏以下の重量であれば安全率の範囲内だということになります。

?でも、この計算方法だとその都度数値が異なって、どのくらい余裕があるかはわかりやすいですが、安全率を単純に合否で判断するのであればわかりづらくは無いでしょうか?

 

そのため、自動車の強度検討では破壊安全率が1.6以上、降伏安全率が1.3以上であることとなっています。

これであればどんなに強靭な材料で高剛性に作っていたとしても、許容限度は24,653,324,683㎏ などという桁にはならないのでわかりやすいはずです。

 

自動車の強度検討の場合、その部品に掛かる荷重というのが算出されますので、その重量から安全率を算出するだけです。

これは先ほどの針金に120㎏の力をかけた時に安全率を満たすかどうか?という算出方法で、1mm2あたりの応力を算出してしまえば良いということです。

 

断面積  A = 7.06mm2 の針金に120㎏ の荷重をかけているのですから、1mm2 あたりにかかっている 応力 σ (シグマ)は、

σ =120㎏ / 7.06 = 16.99 ㎏/mm2

これより破壊安全率 fb と降伏安全率 fr を算出

fb = 引張強度 /σ = 40.79/16.99 = 2.40

fr = 降伏点 / σ = 24.98/16.99 = 1.47

破壊安全率は 1.6以上、降伏安全率は 1.3 以上 と決めておりますので、この場合強度を満たすということになります。

この数値だと、あとどのくらい重量に余裕があるかという数値はわかりづらいかもしれませんが、安全率を満たしているかどうかだけを判断するのであれば、一目瞭然だと思います。

 

これで一旦安全率の話は終了いたします。

 

さて、先程の針金は引っ張る力がかかっていたので、単純に引張強度と断面積で算出できましたが、他の場合はどうでしょう。

 

例えば「1辺が 15cm の S45C の直方体に、上から 500㎏f の重量をかけた時の安全率は?」 や、「幅(長さ)が1mで直径30mmの SS400 の鉄棒に50㎏の人がぶら下がった時の安全率は?」・・・といった場合です。

 

自動車の強度検討書の作成で出現する頻度の高い外的荷重は以下の5つです。

それぞれ各項目に付いて解説を進めていきます。

 

曲げ

せん断

引っ張り

圧縮(座屈)

ねじり

 

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